Jacquet modules of principal series 阿部 紀行(Noriyuki Abe)∗ Graduate School of Mathematical Sciences, University of Tokyo Abstract. We study the Jacquet module of principal series representations. Using the Bruhat filtration, we can introduce a filtration {Vi } of the Jacquet module. In a special case, it is proved that Vi /Vi−1 is isomorphic to the generalized Verma module. 1. Jacquet 加群 G を半単純 Lie 群とし,P = M AN を極小放物型部分群とその Langlands 分解とする.U を G の既約表現とし,U がどのくらい主系列への埋め込みを許すかを考えよう.つまり,M の既約 表現 σ と A の既約表現 λ に対し,HomG (U, IndG P (σ ⊗ λ)) がどのような構造を持つかを考える. Frobenius 相互律により, HomP (U, IndG P (σ ⊗ λ)) ≃ HomP (U, σ ⊗ λ) である.更に,σ ⊗ λ には N の Lie 環が自明に作用するから, HomP (U, σ ⊗ λ) ≃ HomM A (U/nU, σ ⊗ λ) となる.但し,n は N の Lie 環の複素化である.従って,上述の問題は U/nU の M A 加群として の構造を決定することと同等となる.本論では,U が主系列表現の場合に U/nU を取り扱う.な お,上では U が既約表現であるとしたが,以下では既約でない主系列表現も扱う. 少し記号を準備する.θ : G → G を Cartan involution とし,K を θ による固定部分群とする. θ の微分 : g → g も同じ文字 θ で表す.G の Lie 環の複素化を g,g の普遍包絡環を U (g) と書く. 同じ記法をその他の Lie 群に対しても用いる.また,n = θ(n),N = θ(N ),p = θ(p),P = θ(P ) とおく.a 加群 V と,µ ∈ a∗ に対し, Vµ = {v ∈ V | ある k が存在し,すべての H ∈ a に対し (H − µ(H))k v = 0} とおく. さて,改めて U を G の Harish-Chandra 加群,つまり g 加群として有限の長さを持つ (g, K) 加群とする.この時,U/nU を考えたいわけであるが,ここでは話の都合上その双対である ∗ abenori@ms.u-tokyo.ac.jp 日本学術振興会特別研究員(DC1) 1 (U/nU )∗ = {u ∈ U ∗ | nu = 0} = H 0 (n, U ∗ ) をその目標とする.ここで,U ∗ は代数的な双対であ る.Casselman-Osborne の定理により U は U (n) 加群として有限生成であり,従って U/nU は有 限次元であるから,双対を考えることにより情報が失われることはない. さて,関手 U 7→ H 0 (n, U ∗ ) は完全ではなく,従って少し扱いにくい.そのために次の Jacquet 加群(の双対)を導入しよう. 定義 1.1(Jacquet 加群[Cas80] ) . Harish-Chandra 加群 U に対し,g 加群 J ∗ (U ) を J ∗ (U ) = (U ∗ )n 有限 = {u ∈ U ∗ | ある k が存在し,nk u = 0} と定義する. 定義から明らかなことであるが,H 0 (n, U ∗ ) = H 0 (n, J ∗ (U )) である.更に次が成り立つ. 事実 1.2. (1)0 → V1 → V2 → V3 → 0 を Harish-Chandra 加群からなる完全列とする.この 時,0 → J ∗ (V3 ) → J ∗ (V2 ) → J ∗ (V1 ) → 0 も完全である. (2)U を Harish-Chandra 加群とすると,全ての p に対し H p (n, U ∗ ) ≃ H p (n, J ∗ (U )) が成り 立つ. 2. Bruhat filtration λ ∈ a∗ に対し,U (λ) = C ∞ -IndG P (1 ⊗ λ) とおく.ここで,1 は M の自明表現である.U (λ)K を U (λ) の K 有限なベクトル全体とした時,J ∗ (U (λ)K ) が本論の目標である. U (λ) の各元を G/P 上の直線束の C ∞ 切断と見なした時,微分までこめた一様収束位相に より U (λ) は Fr´ echet 表現となる.U (λ)′ でその連続な双対全体を表すことにしよう.U (λ)K は U (λ) の中で稠密な部分空間を成すので,U (λ)′ ⊂ (U (λ)K )∗ と見なせる.また,定義から J ∗ (U (λ)K ) ⊂ (U (λ)K )∗ であるが,この時次が成り立つ. 事実 2.1(Automatic Continuation theorem[Wal83] ) . J ∗ (U (λ)K ) ⊂ U (λ)′ が成り立つ. 従って,J ∗ (U (λ)K ) の各元は,直線束に値を持つ distribution と見なせる. J ∗ (U (λ)K ) を調べるために,Bruhat filtration[CHM00]を導入する.Σ を (g, a) に関する制 限ルート系とし,W を Σ に付随する小 Weyl 群とする,Σ+ を N に対応する正ルート全体とす る.HomR (Lie(A), R) に,次の三条件を満たす全順序 > を一つ定めておく:(1)α > β ならば α + γ > β + γ .(2)c ∈ R>0 ,α > 0 ならば cα > 0.(3)Σ+ = {α ∈ Σ | α > 0}.NK (a), ZK (a) をそれぞれ K における a の正規化群及び中心化群とすれば,W ≃ NK (a)/ZK (a) である.w ∈ W に対し,NK (a) における持ち上げを一つとって固定しておき,同じ文字 w で表すこととする.こ の時,Bruhat 分解により G/P の N 軌道への分解は G/P = ∗ ` w∈W N wP/P となる. この幾何的な状況は,J (U (λ)K ) に次のような filtration をもたらす.W の元 w1 , w2 , . . . , wr 2 を,N wi P/P ⊂ S j≤i N wj P/P となるように並べておき,Vi ⊂ J ∗ (U (λ)K ) を ¯ ¯ [ ¯ Vi = u ∈ J ∗ (U (λ)K ) ¯ supp u ⊂ N wj P/P ¯ j≤i と定める.但し,automatic continuation theorem を用いて,J ∗ (U (λ)K ) の各元を直線束に値を とる distribution と見なした.Vr = J ∗ (U (λ)K ) であるから,{Vi } は J ∗ (U (λ)K ) の filtration を 定める. 3. 加群 Vi /Vi−1 さて,加群 Vi /Vi−1 を考察しよう.集合 wi N P/P を考えると,これは N wi P/P を含む G/P の開集合であり,更に j < i に対し N wj P/P ∩ wi N P/P = ∅ となる.従って,D ′ (wi N P/P ) を wi N P/P 上の distribution 全体が成す空間とし,写像 Vi → D ′ (wi N P/P ) を制限により定 義するとその核は Vi−1 となる.従って,この制限写像は単射 Vi /Vi−1 → D ′ (wi N P/P ) を導 く.wi N P/P は wi N wi−1 と同相であるから,これにより以下 Vi /Vi−1 の元を wi N wi−1 上の distribution と見なすこととする.Vi の元の台は S j≤i N wj P/P に含まれることから,これらの 台は wi N wi−1 ∩ N に含まれる. 長くなるので,以下 wi N wi−1 を N wi と,また Lie 環 Ad(wi )n を nwi と書くこととする.N や n を N ,n にしたものも同様に書く.N ′ D (N wi ,N wi wi 上の distribution で N ′ ∩ N ) とおく.先の議論により Vi /Vi−1 は D (N wi wi ,N ∩ N に台を持つもの全体を wi ∩ N )n 有限 の部分空間と見 なすことができる. よく知られた通り,D ′ (N wi ,N wi ∩ N ) ≃ U (nwi ∩ n) ⊗C D′ (N wi ∩ N ) である.左辺の n 有限 wi ∩ n 有限な部分を調べること wi ∩ N )(nwi ∩ n) 有限 なベクトルからなる部分空間を調べるわけであるが,都合により n とする.このとき,次が成り立つ. 補題 3.1. D′ (N さらに D ′ (N wi wi ,N wi ∩ N )(nwi ∩ n) 有限 ≃ U (nwi ∩ n) ⊗C D′ (N ∩ N )(nwi ∩ n) 有限 を調べることになるわけだが,これに関しては次が成り立つ. 補題 3.2. a ⊕ m ⊕ (nwi ∩ n) 加群として,同型 D′ (N wi ∗ w ∩ N )(nwi ∩ n) 有限 ≃ ((U (a ⊕ m ⊕ (nwi ∩ n)) ⊗U (a⊕m) Ca⊕m −(wi λ+ρ) ) )(n i ∩ n) 有限 が成り立つ.ここで,Ca⊕m −(wi λ+ρ) は 1 次元 a ⊕ m 表現で,(H + X)v = −(wi λ + ρ)(H)v (H ∈ a, X ∈ m,v ∈ Ca⊕m −(wi λ+ρ) ) を満たすものである. さて,補題 3.1 から,単射 Vi /Vi−1 ,→ U (nwi ∩ n) ⊗C D′ (N 3 wi ∩ N )(nwi ∩ n) 有限 (3.1) を得る. 補題 3.3. 上の単射は同型である. 略証. 式 (3.1) の右辺を Mi とおく.µ ∈ a∗ に対し,補題 3.2 から dim(Mi )µ = U (n)µ+(wi λ+ρ) が成り立つ.一方,Osborne 予想*1 により,U (λ)K の指標と (J ∗ (U (λ)K ))∗a 有限 の指標は「ほぼ」 一致する.Harish-Chandra による U (λ)K の計算とあわせることにより,dim J ∗ (U (λ)K )µ = P i U (n)µ+(wi λ+ρ) が成り立つ.よって,各 a 重み空間の次元の比較から,式 (3.1) の写像は同型 でなければならない. (証終) よって次の定理を得る. 定理 3.4. Ad(wi )p 加群としての同型 Vi /Vi−1 ≃ ∗ w U (Ad(wi )p) ⊗U (a⊕m⊕(nwi ∩n)) ((U (a ⊕ m ⊕ (nwi ∩ n)) ⊗U (a⊕m) Ca⊕m −(wi λ+ρ) ) )(n i ∩ n) 有限 が成り立つ. 4. λ が反支配的な場合 定理 3.4 は Vi /Vi−1 の Ad(wi )p 加群としての構造を示しているが,g 加群の構造に関する情報 に関しては何も述べていない.一般に Vi /Vi−1 の g 加群としての構造を書き下すのは難しい(と思 われる)が,λ が反支配的,つまりすべての α ∈ Σ+ に対し ⟨α, λ⟩ ≤ 0 を満たす場合は次のように 簡単に書き下すことができる. まずは,準備として一般 Verma 加群を定義しよう. 定義 4.1(一般 Verma 加群). µ ∈ a∗ に対し,U (g) 加群 M (µ) を M (µ) = U (g) ⊗U (p) Cµ−ρ に より定義する.ただし,Cµ−ρ は 1 次元 p 表現で,(H + X)v = (µ − ρ)(H) (H ∈ a,X ∈ m ⊕ n, v ∈ Cµ−ρ ) により定義される. 以下,λ は反支配的および正則*2 であるとする.この時,W = {w1 , w2 , . . . , wr } を節 2 の条件に 加え,更に i < j ならば Re wi λ > Re wj λ であるように選ぶことができる.次が成り立つ. 定理 4.2. λ が反支配的かつ正則ならば,Vi /Vi−1 ≃ M (−wi λ) が成り立つ. 証明のために,まずは主系列の間の標準的な準同型を思いだそう.wi N P/P 上の distribution δiλ を次の式により定義する. Z ⟨δiλ , φ⟩ *1 *2 = wi N wi−1 ∩N Hecht と Schmid[HS83]により証明されている. すべての w ∈ W に対し,wλ ̸= λ. 4 φ(nwi )dn. ここで,φ は wi N P/P 上のコンパクトな台を持つ C ∞ 関数である.定義から,δiλ の台は N wi P/P に含まれる.またよく知られてる通り,nδiλ = 0 であり,従って δiλ ∈ Vi /Vi−1 と見なせる. X ∈ m ⊕ n に対し Xδiλ = 0,H ∈ a に対し Hδiλ = −(wi λ + ρ)(H)δiλ であることと,定理 3.4 に より,次を示せば十分である. 補題 4.3. U (n)δiλ = Vi /Vi−1 . 補題 4.3 の証明には,次の事実を使う:λ が支配的ならば,dim U (λ)K /nU (λ)K = #W .(たとえ G ば,Kostant[Kos75] )wr が最も長い Weyl 群の元であることに注意し,この事実を dim IndP (1 ⊗ −wr λ)K /n IndG (1⊗−wr λ)K = #W の形で用いる.wr で共役をとることで,IndG (1⊗−wr λ) ≃ P P U (−λ) が成り立つので,dim U (−λ)K /nU (−λ)K = #W .ここで,次の事実を用いる. 補題 4.4. (1)Jbn (U ) = lim U/nk U とおいた時,Harish-Chandra 加群 U に対し同型 Jbn (U ) ≃ ←−k ∗ ∗ ∗ Jbn (J ∗ (UK )) が成り立つ.特に, U/nU ≃ J ∗ (UK )/nJ ∗ (UK ). 有限 有限 有限 (2)(U (−λ)K )∗K 有限 ≃ U (λ)K . 従って,dim J ∗ (U (λ)K )/nJ ∗ (U (λ)K ) = #W である.この事実が補題 4.3 の証明の鍵となる. δiλ の Vi への持ち上げ vi を vi ∈ J ∗ (U (λ)K )−(wi λ+ρ) ととる.この時,vi ̸∈ nJ ∗ (U (λ)K ) を P ∗ ∗ 示そう.vi = k uk xk (uk ∈ n,xk ∈ J (U (λ)K )) とかけたとする.ある µk ∈ a が存在し, xk ∈ J ∗ (U (λ)K )µk であるとして良い.この時,µk > −(wi λ + ρ) である.よって wi の条件から j > i に対し (Vj /Vj−1 )µk = 0.これから xk ∈ Vi−1 となり,vi ∈ Vi−1 となって矛盾する. P ∗ ∗ さて,補題 4.3 を証明しよう.V = i U (n)vi ⊂ J (U (λ)K ) とおく.V = J (U (λ)K ) を 示せばよい.V ′ = J ∗ (U (λ)K )/V とおく.完全系列 0 → V → J ∗ (U (λ)K ) → V ′ → 0 から, V /nV → J(U (λ)K )/nJ ∗ (U (λ)K ) → V ′ /nV ′ → 0(完全).vi ̸∈ nJ ∗ (U (λ)K ) は V /nV の像の 次元が #W 以上であることを意味するから,dim J ∗ (U (λ)K )/nJ ∗ (U (λ)K ) = #W とあわせて V ′ /nV ′ = 0 である. V ′ は J ∗ (U (λ)) の商であり,従って圏 O′ の対象となる.つまり, • V ′ は有限生成 U (g) 加群. • V ′ の全ての元は p 有限. • U (g) の中心を Z(g) とすると,AnnZ(g) V ′ は有限余次元. が成り立つ.V ′ ̸= 0 としよう.この時,{Re µ | (V ′ )µ ̸= 0} は空でなく上に有界である.その最 大値を与える µ を一つとると,(V ′ )µ ∩ nV ′ = 0 が成り立ち,従って V ′ /nV ′ ̸= 0 となり矛盾する. 従って V ′ = 0. 参考文献 [Abe] Noriyuki Abe, Jacquet modules of principal series generated by the trivial K-type, preprint. 5 [Cas80] W. Casselman, Jacquet modules for real reductive groups, Proceedings of the Inter- national Congress of Mathematicians (Helsinki, 1978) (Helsinki), Acad. Sci. Fennica, 1980, pp. 557–563. 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