第 7 回米州首脳会議は何を示したか キューバが初めて参加 4 月 10 日~12 日、パナマで第 7 回米州首脳会議が、 「公平を伴う繁栄:米州における協 力の課題」をテーマに開催されました。会議には、米州大陸の 35 カ国から、33 カ国の首 脳と 2 カ国の代表、潘基文国連事務総長、ホセ・ミゲ ル・インスルサ米州機構事務総長が出席しました。こ の首脳会議にはキューバが初めて参加し、米国・キュ ーバ両首脳の会談も予想されたこともあって、また事 前の米国の一方的なベネズエラ敵視政策が、米加を除 く中南米 33 カ国すべての国の厳しい批判を浴びてお り、会議がどう展開されるか、世界の大きな関心を呼び、緊張の中で会議が開催されまし た。 事前の外相会議では、米国の反対で最終文書が採択されず、最終文書のない首脳会議と なりました。11 日の本会議の開場直前、会議場入り口で、米国のオバマ大統領とキューバ のカストロ議長が出会い 1 分近く挨拶を交わし、話題を集めました。 各国の主権、民族自決権が強調される 会議では、ボリビアのエボ・モラーレス大統領、エクアドルのラファエル・コレア大統 領などのキューバ の盟 友国が、キ ューバ、ラテンアメリカ・カリブ海 諸国の民族主権、 民族 自決権を米 国は理解すべきで 、米 国の対キュ ーバ経済封鎖政策 は不 当であり解 除すべきと強調しました。また、カ リブ海の小国のド ミニ カ国のバー ロン外相やジャマ イカ のシンプソ ン首相も、キュー バの 会議への参 加を祝しつつ、各国の主権と民族自決権は常に尊重されなければならないと主張しました。 オバマ大統領は、キューバとの国交回復交渉を進めることを確認し、米国はイデオロギ ーに束縛されず、未来を見ていきたいと述べました。続いて演壇に立ったキューバのカス トロ議長は、19 世紀初頭から現在までの米国のキューバ併合、干渉の歴史を詳細に糾弾し、 テロ支援国家リストからキューバを削除すること、経済封鎖の解除を要求し、米国がキュ ーバの民族自決権を認めた上で、平和共存の原則に基づいて米国との国交回復交渉を進め たいと述べました。 3 月 9 日にオバマ大統領が発表した「ベネズエラを米国の国家安全保障と外交の脅威と みなす」という執行令は、3 月 16 日南米諸国連合(UNASUR、12 カ国)が、3 月 17 日米州 諸国民ボリーバル同盟(ALBA、8 カ国)が、3 月 25 日域外の国々も含み国連の G77 グル ープ+中国(134 カ国、国連加盟国の約 70%)が、3 月 26 日中南米・カリブ海諸国共同体 (CELAC、33 カ国)が、それぞれ特別決議により、 「ベネズエラへの内政干渉」として厳 しい批判を発表しました。キューバは、3 月 9 日フィデル・カストロ前議長が即刻マドゥ ーロ大統領を激励する短い書簡を発表し、 「米国政府の乱暴な計画」と、オバマを名指しに せず抑制された表現で執行令を批判し、その後同国の新聞・テレビでは米国のベネズエラ への内政干渉として厳しく批判する論調が続きました。3 月 17 日沈黙を守っていたラウ ル議長は、ALBA 首脳会議で演説し、 「ベネズエラのマドゥーロ政権の政策を支持するとと もに、オバマ大統領の執行令は、国際法違反で、ベネズエラへの内政干渉であると批判し、 米国との国交回復交渉を進めているキユーバを米国は買うことはできない、キューバとベ ネズエラとの連帯は破壊できない」と厳しく原則的な立場を述べました。 こうしたラテンアメリカ・カリブ海の批判の嵐の中で、オバマ大統領は、さすがに首脳 会議直前に「ベネズエラが米国にとって脅威とは思わない」と述べて、軌道修正をしまし た。首脳会議でも、米国のこの政策は、多くの国から批判を受け、マドゥーロ大統領は、 「大統領令撤回要求署名 1100 万筆を持参した。ベネズエラの問題は、ベネズエラの憲法 に従って解決する。オバマ大統領に敬意を表するが信頼をしない。相違点は外交的手段で 解決したい」と提案しました。 59 年ぶりに米・キューバ首脳会談開催 首脳会議終了後 11 日、オバマ大統領とカストロ議長は、1 時間にわたり会談しました。 59 年振りの歴史的な両首脳の会談でした。両首脳は、意見の相違は認めつつ、国交回復交 渉の推進、数日内のテロ支援国家リストからのキューバの削除、早期の大使館再開で合意 しました。カストロ議長が要求した経済封鎖の解除は、米議会の承認を得るよう協力する ことで一致しました。こうした両国の首脳会談の実現が、キューバの国内経済の困難から キューバが米国の貿易・投資を必要として、実現しという見方が少なからず見られますが、 皮相な見方です。90 年代初め、キューバ経済が劇的に 40%近く後退したときでさえ、キ ューバ側は米国の投資に頼ることはしませんでしたし、2006 年以来ラウル政権は、対等・ 平等・相互尊重の立場で国交の再開交渉を繰り返し米国に呼びかけてきた事実を見なけれ ばなりません。 首脳会議の前に、オバマ大統領は各国の市民が参加した市民社会集会で「米国が、ラテ ンアメリカに干渉しても無実と考え られた日々は終わった」と述べました。 また、カストロ議長との会談の後の記 者会見で 、「キューバの 政権転覆はし ないが、民主化を促進する」と述べて います。しかしオバマ大統領は、首脳 会議の前に、パナマに来ていたキュー バの反体制派と会い、 「米国は、常に反 体制派を支持する」と 述べています。 かつてオバマ大統領は、2009 年 4 月 の第 5 回米州首脳会議で、中南米・カリブ海地域で自主的な立場を取る政権が 20 か国を 超える状況を前にして、 「米国は、西半球で平和と繁栄を推進してきたが、時には関係を希 薄にしたこともあったし、時には、われわれの条件を押しつけようとしたこともあった。 しかし、私は、対等のパートナー関係を追求することを貴方がたに固く約束する。われわ れの関係には、上下関係はない。相互尊重と、共通の利益と、価値観の共有に基づく関係 があるだけである」述べたことがあります。 真の対等・平等な関係をめざして しかし、実際にはその後米国は、2009 年ホンジュラスで、国内の寡頭制勢力、軍部に よって自主的な立場をとるセラヤ大統領を放逐させ、国外に追放し、2010 年にはエクア ドルの国家警察を通じて、ルシオ・グティエレス元大統領を扇動し、コレア大統領を一時 軟禁し、2012 年にはパラグアイで、寡頭制支配勢力、大土地所有者と提携し、ルーゴ大 統領を弾劾、失職させ、2014 年 2 月にはベネズエラで、反政府勢力による街頭騒擾行動 を支援して政治的対立をあおり、4 月にはキューバでツイッターを利用して、若者たちに 反政府行動を呼びかけるなど、干渉行為は終わっていません。 今回の米州首脳会議の結果は、中南米の「反米の潮流や同盟」が軟化したことを示すも のではなく、米国がキューバやベネズエラに対するように実利的に覇権的、干渉的政策を 転換すれば、自主的な立場を取る各国との関係も改善し、地域の緊張が緩和されるという ことを示しています。しかし、オバマ政権のこうした転換は、各国の主権と民族自決権を 認めて行われたものではなく、地域での孤立化を避けるために行われた、あくまで実利的 なものであり、世界的に進めているリバランス(経済・軍事力の再編成)政策で、米州で の近年の中国、ロシアの進出に対抗する側面もあることを見落としてはなりません。 (2015 年 5 月 8 日 新藤通弘)
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